本編
いつしか俺の心は闇で覆われていた。正体は知れてるが、自分ではもはやどうしようもない程度の物だった。自我があるからこそ辛く、自我があるからこそ必要な物だった。精神はもはや肉体という牢獄から抜け出して、ただひたすら遠くに行きたがっていた。肉体はそれに従い、ただ夜の街を駆け抜けていった。
ただ抜け出したい、それもこの苦しみから。だが、この苦しみから抜け出したところで二度と苦しみに遭遇しないなんて誰が言ったのか?この先も苦しみがある事は最初から分かりきった事だ。一つ逃げ出したところで何も解決しない。社会はここから逃げ出した者を拒む。周りも逃げ出した者に対し攻撃する。為す術もなくただ立っている事しか出来ない者は苦しむだけだ。
相反する感情が俺を蝕む。生きていたく、死にたい。笑っていたく、泣いていたい。何処かへ行きたく、何処にも行きたくない。自分を守りたく、自分の血を見たい。穢れた感情が思考回路を徐々に占領する。
気づいたら俺はただひたすら遠くまで行こうと自転車を走らせていた。何も考えず、感情も無く、ただひたすら漕いでいた。真夜中の街は孤独で騒々しい。何も考えずに走るのにはちょうどいいのだ。自分を傷つけていたつもりが、精神が赴くがままに遠くへ来ていた。声も発さず、自分への怒りをも忘れて。ふと我に返ると自分を傷つけるので、これで良かったのだろう。自転車は精神に応じ、静かに、素早く動いていた。
いつしかかなり遠い場所まで来ていた。ふと時計を見るとかなりの時間が経っていた。今後の事もあり戻る事にしたが、時間が許せばもっと遠くに行きたかった。ただ長く、静かに伸びている道路はまるで俺に走れと呼びかけているようだった。しかしこれ以上進むと戻れないような気もしていた。だが、道路は俺にこう問いかけているようだった。What's ahead straight ahead?と。その答えは今は知る余地も無いだろう。
いつかこの答えを知る時が来るのだろうが、その時までに夢は絶望に変わり果ててない事を願って――